愚者
葵はスツールに座り時雨が入れてくれた紅茶を啜り俯く。店へと行く道すがら、学校での経緯を全て話したのが幸いしたのか、心の澱が少しだけ薄れ気持が軽く成る。
「小夜子君が居なかったら危なかったね」
「はい……」
「あの子は自分の意志を貫き通すからね。不幸中の幸いと云った所だ」
「そう、ですよね。でも、私は小夜子さんの事を何も知らないんです」
「何もかい?」
「はい。知る切欠が無いって云うのか……何処に住んでいるのかとか本当に何も知らないんです」
「確かに滅多に話すことは無いからね」
「それで……聞いて良いのか分からなくて。それに、私がこの状態ですから、完全に頼り切った侭なんです。でも、それも凄く嫌なんです。助けられた侭なのに何も知らないって云うのが」
 葵はそこ迄云って黙り込む。助けられているのに何も知らない。知りたいが知る事が出来無い。その現状に対して時雨は数秒程黙り込み、意を決して話し出す。
「別に隠している訳じゃ無いと思うが、知りたいのかい?」
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