愚者
「何で、そんな事を……」
「気持悪いのよ!売りをやってる子なんて!」
 女生徒の最後の言葉が葵の心を激しく揺さぶる。聞きたく無い言葉の数々が飛び交う中「アンタ何か学校に来なきゃ良いのよ!」と捨て台詞を吐き女生徒達は立ち去る。
 葵は何が起きたのか理解出来無い侭で立ち竦んで居ると、突風が屋上を吹き抜けて葵に襲い掛かる。朦朧とする意識。屋上のフェンス。葵はふらふらと風に誘われる様に屋上の端へと行き、金網に手を当て力を込める。突き刺さる言葉の数々。葵の意識は「死」と云う甘い誘惑に誘われ出している。ふら付く足取り。金網を掴んだ手に力を込めた為に指先が鬱血しだす。身体が勝手に動き出し金網をよじ登ろうとした時、拡声器から昼食終了のチャイムが校庭に響き渡り葵は意識を取り戻す。もう少しで金網を飛び越える所だった。最早何が切欠で自分を見失うのか分からない状態に成っている。砕かれた心。もう限界かも知れない。気が狂いそうに成り混乱する。だが、偶然にもチャイムと云う現実の音が葵を現実に立ち返らせた。
―何してたんだろう
呆然と金網越しに街を見下ろし葵は恐怖で身体が震える。無意識の間に、この金網を越え様としていた自分に心底恐怖する。精神と身体のヴァランスが限界に来ている。泣き出したい。逃げ出したい。色々な思いが交錯する中、葵は食べ掛けの昼食を片付け、教室へと続く地獄の階段を静かに下りて行く事にした。

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