愚者
「みな迄云う必要は無いじゃろうが、仮にワシ等に累が及ぶ場合はそれ成りの責任の取り方をして貰うぞ」
「分かっています……」
「期待して良いな?」
 初老の男がその言葉を最後に立ち去るのを切欠に、全員がその場を後にする中、ゲームマスターである男は苦渋の顔を浮かべる。
「何とかしなければ……」
 あらゆる可能性が頭の中を交錯しているのだろう。この様な事態は今迄に起こった事が無い為に如何対処したら良いのか分からないと云う感じだ。基盤が絶対に安泰だと云う事で動いていた男に取って、富田と関の存在は障害以外の何物でも無いが、それ以上に厄介な存在は、小夜子と云われる施設の子供だ。それに、初老の男が指摘した通りに、自分が関に狙われている可能性が高いとの情報があった。
仕事上では上手く立ち回り金回りも人脈も有るのが禍していると云う所だ。男は銀髪の髪を軽く掻き上げ、今後の対応に付いて一人で思案する事にしたが、ゲームマスターとしてハウスルールを作っている手前、迂闊に動く事は出来無い。誰かが、自分の思惑通りに動かしてくれる事に、運に身を委ねる以外に方法は無いかと思った直後、携帯電話が着信音を響かせる。
「私だ」
 男は数度受け答えをして要る間に自然と顔に笑みが浮かび上がる。
「貴方が勝手に暴走するのは仕方が無いと眼を瞑ろう。無論、その辺りを上手く処理すれば、それなりの報酬を期待しても構わない。但し、この内容は私達だけの秘密だ」
 思わぬ事が起きた。それも先程迄悩んでいた内容と逆の方向にだ。男は自分が持っている運の強さに酔い痴れる様にシニカルな笑みを浮かべ携帯電話をズボンに捻じ込む。
「欲望とは恐ろしい物だ」
 事態の好転に気を良くしたのか、男は込み上げる笑いを堪え乍、今後の事態が思い通りに運ぶ事を確信して会議室を後にした。

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