愚者
この場合、死に至る程の瑕を負う事は限り無く少ないが、手首には確りと鋭利なナイフ等で出来た瑕は残り、この状態が、家族がイジメを察知する数少ない切欠とも云える。
 デスクの上。ポタリポタリとデスクに血が薄っすらと滴り落ちるのを、葵は精気が抜けた瞳で見守る。完全に心と身体のヴァランスが崩れ出している。痛みが痛みとして感じる事が出来無い状態に成っている。手首には生々しい赤い筋が何本も出来て行くのを葵は他人事の様に眺めている。泣き出したい気持と、痛みが与えてくれる只一つの安息の中、ベッド脇に置いて在る目覚ましが激しくアラーム音を鳴り響かせ、葵は椅子から立ち上がり手首の血を拭い去り、学校へ行く為に強迫観念に近い心の鬩ぎ合いの中、無意識の内に制服を着る。
 痛みが現実味を与え、徐々に意識が戻る危うい状態の侭で葵は家を出て行った。

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