愚者
 私達は廊下を雑談を交し乍歩いていると、南條が待ちかねたとばかりに玄関の入り口を開けて待っていた。
「珍しいわね、アンタから積極的に訪れると云うのも」
「一応、要件がありますからね」
「立ち話をしても疲れるだけだから、早く入りなさい」
 細かい言葉の遣り取りをする事無く、南條が私達を部屋へと通すが、関は若干緊張気味な面持ちで私の後に続いて来る。南條の部屋は相変らずと云うべきか、この部屋だけは時間が止まったかの様な錯覚を受ける。全てのシガラミから解き放たれた亜空間と云う所だ。
「まあ、座りなさい」
 テーブルには簡単な酒と肴が用意されている。私と関は互いに並んで椅子に座ると、南條が対面の席に座りビールを薦めて来るのを受け、関は幾分リラックスする。
「それで、どう云った話なのか聞こうじゃないの」
 南條が気だるい感じで話し出す。関は何処から話したら良いのか思案し乍も、懐から一枚の写真を取り出しテーブルに置く。
「先ずこの写真を見て欲しいんや」
 テーブルの上。私も写真に眼を向けると、思わず眼を見開いてしまう。写真には葵が映し出されている。何故関が葵の写真を持っているのか理解出来無い。私が困惑しているのを他所に、南條が写真を手に取り眺める。
「この写真の子がどうしたのさ?」
「何処から説明をしたら良いのか、少しばかり複雑な内容になりますけど、掻い摘んで云うと、その写真の子が賭けの対象に成っとるんですわ」
「意味が理解出来無いね」
「説明が下手ですんまへん。今から話す内容、その写真の子がキーワードって意味ですわ」
「この子と、アンタが請け負っていた仕事が繋がっているのかい?」
「関係が大有りなんですわ」
「もう少し、詳しく聞かしてくれないかい」
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