愚者
「ふむ」
「その辺りを考慮するのであれば、先ず若い世代では無いと云う結論が比較的弾き出し易い答えに成るし、中途半端な年と云うのも除外ね」
「なるほどなぁ」
「今聞いた情報を多角的に吟味した場合、権力と財力の両方を持ち得ると成ると、人生と云う長い道を歩き切った、ある意味では一線を越えた人で無ければ到達出来無いと云う結論に行き着くわけよ。その上で、私は納得出来無いわね」
「何がでっか?」
「そんな事を主催する意味よ。何年前から行なっているのかは分からないけれど、相当に脳味噌が腐っている感覚で無いと無理ね」
 南條は吐き捨てる様に云い切り、不機嫌極まり無いと云う表情が顔に浮き出て来る。
「私が気に入らないのはね、私と同じ位の年齢だとすると、相当に混乱した時代を生きて来た奴だと云う事に成るのよ。それなら、命の大切さと云うか、生きる事の大変さを十二分に理解していると思うのよ。それなのにそんな行為をすると成ると、相当にイカレタ感覚の持ち主でなきゃ嘘に成るわ。それ程迄に、私達の世代が生きて来た時代は混乱していたんだから。明日を生き抜ける事を気楽に捉えている人等は誰もいやしなかった。それこそ、食べる為ならどんな事でもしたし、実際に、自分と家族や、その仲間と生き抜く為には、沢山の人達が色々な事をしていたわ。生命の尊さと云う意味では、その当時の人達、この場合は私達の世代に成るけど、根本的な部分で生命と云う物を理解している筈だと思ってたんだけどね。どうやらそんな人ばかりでも無いって云うか、複雑な気持ね……」
 南條はうんざりだと云う風に云い澱み、渋面を作り乍ビールを煽る。私と関の世代も、南條とは別な意味で激動の時代ではあった。高度経済成長と云われる背景と、学生運動等が主流で世情は混乱してはいたが、違う意味で生を肌で感じる事が出来る時代ではあったと思う。そう云う意味では今の世情はどうなのだろうか。犯罪者の私が偉そうに云える義理では無いが、犯罪をしたからこそ見える世界もある。そんな私から見える世界も、矢張り南條の云う言葉が表している様に、迷走していると云っても良いのかも知れない。私は、肴のサラミを齧り乍二人の会話を黙って聞いていると、関が緩やかに話し出す。
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