愚者
 走り回る。只管自分の罪から逃げる。どれだけ走り続けたのだろうか。人生からか、それとも別の何かから逃げているのだろうか。幼い妹の顔が頭を過ぎる。施設の前。私は自問自答した結果、妹を捨てる決意をした。手にはまだ人を殺した感触が生々しく残っている。そんな状態で幼く純粋な妹を抱えて生きて行く事等出来無いと云う結論の元、私は自分の心の弱さを捨て去る様に、雨が降り続ける中、施設の前に妹を置き去りにして走り去った。それから数十年。忘れたくても忘れる事等出来る訳も無く、又、開き直る程に強い訳でも無い私は、諾々と流れる時間に身を委ねる様に流れ流れる生き方を選んだ。揺さぶられる心と恐怖。金を手に入れた代償としては余りにも大きな過ちだ。自分の生き方が子供だったと思えたのは、悲しいかな、犯罪を犯し追われる立場に成ってからだ。どれだけ粋がっていたとしても、何処かで両親に庇護して貰えると云う甘えが有ったのだろう。だが、両親が死に、現実の世界を肌で感じた時には時既に遅しと云える状態に成っていた。過去の償いでは無いが、罪を清算するので有れば良い切欠なのではないだろうか。何度も頭の中で反芻しては消え去る決意。今も昔も。私の心の根底は弱い物なのだろう。
 無視をすれば良い。しかし、罪を償わない限りは一生背負い続ける業に成る。色々な思いが浮かんでは消えて行く。無論どの選択肢も自分を偽善化する行為でしか無い事は分かっている。
 鬱から来る無間地獄の狭間の中。私はオーバーラップする過去の記憶と今の狭間で、悶える様に悪夢の連続を見続け乍更に深い眠りに落ちて行く事を冷静に自覚していた。

「失敗をしただと!」
 銀髪の男は包帯に包まれた小男に一喝する。それ程迄に男が犯した失態は銀髪の男に取っては手痛い内容だからだ。
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