愚者
 心身共にボロボロと云うのは直ぐに分かる。何か問題が起こったのは間違い無い。関が話をしていた人間賭博が本格的に動き出したのだろう。私は葵を抱き抱え二階の自室のベッドに寝かせる。葵の眼からは生命の光が失われている。殆ど魂の抜け殻に近い印象を受ける。この事態を放置すれば間違い無くゲームのコマとして消化されるだろう。無視をすると云う選択肢は無論有る。だが、過去の罪を考えるとそれは駄目だと本能が私を責め立てる。関が教えてくれた情報と、氏名の新崎と云う部分。そして、何よりも私の血がこの親子と私の関係を無言で教えてくれた。この葵は私の血縁者に当たる。これは先ず間違い無い。そう成ると、この子の母親は私の妹の恵に成る。数十年の時を越えて、こんな状態で妹と再会するとは思わなかった。だが、過去から逃げる事しか出来無かった昔とは違う。今の私には立ち向かう勇気は有る積りだ。そう考えると、葵の置かれている状況を無視する事自体間違えている。葵の母親である恵に、今更兄だと名乗る事等は無論憚られる。どの面を下げて兄だと名乗れると云うのだ。数奇な運命とでも例えたら良いのかも知れ無いが、私の犯した罪が原因で恵自体も数奇な運命を歩む嵌めに成り、その辛い時期を自力で乗りこえた筈が、またしても人間の汚い欲望に巻き込まれ悲惨な状態に成っている。私は葵をベッドに寝かした侭で階下に行き店を閉める。元々店を閉める時間帯だ。私は手早く店仕舞いをして二階に上がろうとした時、入り口のドアが派手に開かれた。
< 235 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop