愚者
夕方の客入りはそれ程に多く無い。私はカウンターの中で外に視線を走らせる。今の所、私の周りでヘンな事件は起きて無いが、油断が出来る状態では無いのは最近の気配で何と無く分かる。後は、私自身が如何するかと云う問題が残されている。ズボンのポケットに捻じ込んでいる写真を取り出して眺める。本当に複雑だ。今頃に成って過去の因果が訪れるとは思わなかった。逃げる事は出来る。金自体は持っているし、時効等は随分昔に迎えているのだ。誰も居ない土地へと逃げればそれで事足りる。だが、同時にそんな事を続けても死ぬ迄この悪夢から解き放たれる事は無い事も分かっている。安住の地と云う程に安定している訳では無いが、今の生活にはそれ成りに満足もしている。複雑な物だ。心中定まらない侭で葵の写真を眺めていると、入り口のドアが開かれ私は息を飲む。ボロボロに汚れた葵が魂の抜け殻の様に立っている。私はカウンターから飛び出して倒れそうな葵を抱き止める。
「どうした!?」
「どうした!?」