愚者
「少しだけ痛いが、我慢してくれ」
 私は膨れ上がった傷口を消毒液で綺麗に拭い小刀で薄皮を切り裂くと、ドロリとした黄色い膿と血が瑕口から流れ出る。ハンカチで素早く何度も傷口を拭い膿を搾り出す。関は呻き声一つ上げずに耐える。流石に修羅場を潜って来たと云うだけの事はある。冷や汗を浮かべ乍も何も云わずに私に身体を預けてくれる。こう云う状態の時、大体の人間が酷く取り乱す事が多い。私は一頻り膿を出し切り、消毒液を染み込ませた脱脂綿を傷口に当て包帯で固定する。
「えらい手馴れたもんやな……」
「長生きをすれば色々な処世術を覚える物さ。それよりこれを飲むと良い」
「抗生物質かいな……」
「恐らく今夜辺り酷い熱が出ると思うし、化膿するのを防ぐ為だ。痛み止めの薬も追加して置くよ」
 私はミネラルウォーターと抗生物質を手渡すと、関は何も云わずに飲み一息付く。
「迷惑掛けてすまんな」
「気にする事は無いさ。それより、良く通報されなかったね」
「この近所で襲われたんや。ほれ、南條はんのマンションの近くの公園や」
< 237 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop