愚者
「そんなん気にする事はあらへん。ワシかて時雨に云うて無い過去は仰山あるで。やけど過去は過去や。それを踏まえて今の関係が良好なら、別に問題はあらへん」
「そう云って貰えると助かるね」
「ワシは基本的には偽善的な事は云わん主義や。やけど、これで少しだけ時雨と仲良く成れた気がするわ」
 どちらともなくグラスを掲げて乾杯をする。私自身、今の生活には満足をしているし、関との関係も嫌いでは無い。過去を晒す事で、良好な関係が壊れる事を本能的に嫌い、誰にも話す事は無かったが、それは、ある意味では間違った選択肢だったのかも知れない。私に人を見る眼が無いからその様な選択肢を選んでいた。そう考えると少しだけ気分が楽に成る。実際に、関にも複雑な過去はあるだろう。だが、それを踏まえて今の関が居て私が居る。人生と云う長い道程が個人と云う人格を作り上げる。人格と云う物は親や周りの環境も勿論影響はするだろう。だが、個人と云う人格は、その歩いて来た道筋の上で改心をし人に優しく成れたりもする。詰り、全てが周りの環境が原因で本人の人格が歪む訳では無い。そう云った点を踏まえ、人は成長をする過程で自分の弱さや脆さに気が付いた時、人は、人として少しだけ大きく成れる。そう云う意味では、人間は死ぬ迄勉強だとも思う。
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