シムーン
唇が塞がれたその状態のままで、ベッドに押し倒された。

背中に感じるのは、柔らかいマットレスだった。

唇が離れると、目の前には彼の顔があった。

「お前が――真希が欲しい…」

真希――自分の名前なのに、特別な言葉のように聞こえた。

彼が私を抱きしめた。

彼の体温は、少し低かった。

その躰を温めるように、私は彼の背中に両手を回した。

「――真希…」

消え入りそうなくらいの小さな声で、彼が私の名前を呼んだ。

もう、迷わなかった。

この人に、全てを委ねる――そう思った。
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