シムーン
覚えておく、か…。

何ともウソくさいなと、俺は思った。

俺は彼女に背中を見せると、寝室に入った。

ドアを閉めてもたれかかると、俺はふうっとため息をついた。

自分の手に視線を向けると、彼女の髪の感触が手の中に残っていた。

パーマがかった、フワフワの髪。

思い出すのは、俺がかつて思っていた人だった。

黒髪の、パーマがかったセミロングの髪。

「――堺彩花…」

彼女は、俺がずっと片思いしていた人だ。

彼女が入社した当時から、ずっと片思いしていた。

そっと、俺は目を閉じた。
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