アリィ



そしてまた今日も書写、書写、書写である。




「中学生に日記書かせようなんてバカげてるよね。小学生じゃあるまいし」


ぶつくさ言いながらアリィが対峙しているのは、一行日記。


毎日の天気と出来事を簡潔に記していくだけのものだ。


そんな小学生レベルのことさえまともにできない奴に文句を言う資格はない。


「はあ、めんどくさい。一週間前のことも思い出せないよ」


アリィは、その日の出来事を新鮮な記憶から順に書き出しているようす。


しかし、三日前の「ショッピングをしてお昼はイタリアンを食べました。」って、その日はアンタ、テニス部の合宿だったろうに。


どれだけ軟弱な記憶力なんだ。


いっそ大好きなお姫様の出てくる物語でも書いたほうが、よほどマシなんじゃないか、

と数学の問題集の答えのみを丸写ししている私は思う。


計算の過程とか、分からないふりの空白とか、わざと間違えも混ぜてみるとか、そんな良心的なことはしない。


人のものだもの、関係ない。


答えを写したって丸分かりにしてやるんだ。


リズムに乗ってどんどん赤丸を量産している私の視界に、すすす、とアリィの一行日記のプリントが侵入してきた。


そこには、明日の日付に「晴れ」との勝手な予測、そして。


「ゆっぴーとお出かけしました。とても楽しかったです」


誇らしげなアリィ。


それを私は、じっとり睨みつける。


「……宿題が終わったらね」


しかし、見渡してみれば、ずいぶんプリントは片づいている。


もう夕方になっていた。
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