アリィ


「ゆっぴー、ちょっと」


「……え?」


「ペン。早く紙から離さないと、どんどんにじんでるよ」


視線を落とすと、清書用の広用紙が黒インクの海になっていた。


私はどうやら紙に油性ペンの先を押し当てたままぼうっとしていたらしい。


「あ……」


「げぇっ、どうするの?紙は一班に一枚しかくれないって、先生言ってたよ」


何もしてないアンタに責められる筋合いはないよ。


にらみつけたけれど、なんと変わり身の早いことか、当人はすでにお絵かき集中モードに入っていて、この視線に気づきもしない。


やる気が失せた。


どうせ時間は余っているんだ。


私は外でも眺めていることにした。




この教室の窓からは、正門がよく見える。


門からは赤レンガで出来た広い歩道が伸びていて、水はけがいいように校舎から門の外へとなだらかな坂になっている。


周りにはイチョウや名の知らない広葉樹が幾本も立っていて、

歩道沿いにはパンジーやベゴニアなど学校では定番の花が植えられたプランターが並んでいる。


しかし冬の気配がしている今は、プランターの花は枯れ、イチョウの落ち葉が降り積もっている。


レンガの赤と落ち葉の黄のコントラストが綺麗なこの景色は、私のお気に入りだ。
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