アリィ


貞子。


有名なホラー映画の、井戸から出てくる、あの貞子。


まさに、そんな風貌だった。


紙飛行機の行方を追っていた者達はもちろんのこと、前の席にいた女子が短い悲鳴をあげて、そこから異変を察知する波は広がる。


教室は、あっというまに恐怖に包まれた。




貞子は黙ったまま、液をしたたらせて自分の制服や床を黒く染めるばかり。


恐い。


これで突然白目をむいて奇声を発したりでもされたら、絶対に誰かの心臓が止まる。




「……あのさ」




貞子がしゃべった!


……いや、貞子じゃない。


このかすれた品のない声には聞き覚えがある。


黒い液にまみれた顔をよく見ると、それは、ノアだった。


あの例の問題児三人組のひとり。


幽霊やおばけじゃなくてよかった、なんて安心できない。


あの事件以来、一体なにをしていて、どういう経緯でこんな姿になり、今ここにいるのか。


そして、カナエとミオはどうしたのか。


いつもつるんでいるところしか見たことがないので、あの三人組のうちの誰かを単体で見るのはめずらしい。


疑問は山積みだが、この空気のなか問いかけられるほどの図太い神経は持ち合わせていない。


何であるにせよ、縁起のいい用事ではなさそうである。
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