アリィ

「ゆっぴー?どうしたの?」


「汗が目に……入った……」


「へぇ。そんな細い目なのに、何か入ることがあるんだね、言っちゃ悪いけど」


なんて失礼な奴なんだ。


普通、そういうことは思っていても言わないだろう。


自分だって負けないくらい細い目をしているくせに……もう、腹の底から、めいっぱいアリィなんて大嫌いだ。


ますますにらんでいると、廊下のほうからコンコン、と音がした。


「有田淑子、いますか?」


教室前方のドアから、他のクラスの女子が顔を出している。


しなやかな筋肉のついた腕や足、すっきりと整った顔は日焼けしていて、

一目でスポーツをするために生まれてきた人なのだと思った。


こんなさわやかな人が、こんなうざったい人間に何の用だろう。


「アリィはここだよぅ。どうしたの?」


アリィはお得意の甘ったれた声で女子に駆け寄っていく。


彼女が頬を引きつらせて後ずさったのは当然の反応だ。


「これ、昨日言ってたやつ」


「ああ、ありがとー」


「たしかに渡したからね。なくさないでよ」


「分かってるよお」


「はいはい、じゃあまた放課後ね」


「はあい、お疲れさま」


アリィのあいさつを聞き終わらないうちに、「この教室、暑いわね」と言い残し、彼女は去っていった。


いつにも増して内股で帰ってくるアリィは、なぜだかご機嫌な様子。


手には一枚のプリントが握られている。
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