アリィ

襲来





朝起きたら、居間のテーブルの上に一万円札がぽつりと置いてあった。




あの夜からしばらく経って、もう夏休みも終わりが近づいてきたけれど、私と父の間に和解の空気はない。


どちらも歩み寄ろうとしないし、自分は悪くないって顔をしている。


二日に一度、交代で行っていたコインランドリーも、それぞれが必要なときに、自分の洗濯物だけを持っていくようになった。


朝、私が起きると父はもういなくて、夜、私が寝静まったころに帰ってきているようだ。


完全なすれ違い生活。


それでも私に飢え死にされては困るから、毎週水曜日、父はテーブルに一万円を置いておくようになった。


これを見る度に、父への憎しみは増す。




あのあと、謝ってくれたなら、許す余地もわずかながらにあったのに。


それどころか父は自ら進んで娘を避けるようになった。


家族であることを放棄したのだ。


この一万円札が、その象徴である。


これを初めて見たとき、父は飼育員になって、私は最後の家族を失った。


「週に一万はちょうだいよ」と言った私の望みは叶った。


でも、それは二人分の食料をコンビニで調達しなければならなかったころの話で、一人の今は金が余ってしかたない。


もともと物欲は薄いから欲しいものもないし、父からの『エサ代』は貯まる一方だ。
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