アリィ
一万円札を手に取る。
ただの紙切れなのに、これがないと生きていけないんだ。
今はたくさんあるからいいけれど、使えばいつかなくなるし、これから何かが起きて大金が必要にならないとも限らない。
だいたい、このマンションの家賃を払っているのは父だ。
そこに私は住まわせてもらっているという、この現実。
父なんていなくなればいいのにと思えど、お金ばかりは自分ではどうすることもできない。
まだ子供だから、親のスネをかじらないと……飼育員に恵んでもらわないと生きていくことすらできないのだ。
悔しくて手に力が入ったら、握っていた諭吉がクシャっと笑った。
なんだよ、お前、私を笑うのか。
たしかに彼は偉人なのだから、私なんて笑われても仕方ないのかも知れない。
でも実際のところ相手はただの紙切れで、いやしかしお金は大事にしなければならないもので、
だけどやっぱりただの紙切れに笑われるのはシャクに障って、結局こんなくだらないことに感情を荒立てている私はバカだ。
自分の部屋に戻るなり一万円札を所定の引き出しに放りこんで、エアコンをつけた。
もう我慢はしないことにした。
家計のために扇風機だけで過ごすなんて、もううんざりだ。
待ち望んだ冷風に身をさらす。
涼しい。
気持ちいい。
……はずなのに、この胸の中は鎮まらない。
なぜなら、明日に迫っているからだ。
例の、お泊まり会とやらが。