君が、イチバン。

緩く、淡く、強く

◆◆◆




「…しいちゃん?」

瑛ちゃんが私の髪を優しく撫でる。


「何かあったんでしょ?」


私の表情ひとつで、声だけで、的確に見抜く癖のある話し方に、甘えられる場所があるのだと自覚する。一条さんが駄目だったんじゃない。逃げ道は瑛ちゃんじゃなきゃ駄目だった。


恋人でもないくせに


ただの友達でもないくせに


私の居場所をくれる人。


「…鰐淵さんに会った」


短い私の言葉に瑛ちゃんは、


「わにちゃん?」


驚く様子すら見せず、何一つ変わらない仕草で聞き返した。

帰宅途中の車の中で、いつものようにかかってきた電話の相手に、もしかしたら声だけで見抜かれてしまうかもと取るのを躊躇した。それでも、結局甘えたのは



『…しいちゃん?今すぐおいで』



やっぱり声だけで見抜かれたから。



瑛ちゃんの部屋について、彼の顔を見た私は安心してしまった。

あの日の様に。

< 107 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop