君が、イチバン。

正直、想像より遥かに大変な仕事だった。朝は早いし、30キロ近くある砂糖や粉類を運ぶのは当たり前で男の子がいたりすると手伝ってもくれるけど、忙しい時はそうもいかない。
一日中甘い匂いに接していると体まで甘くなる気がする。常に新しいケーキを開発している華やかなイメージだけれど、実は同じ味を常に提供する事が一番大事だったりする。
開店から閉店まで朝から夜まで、日々はめまぐるしく動いて、とにかくハードな仕事だった。私の二の腕はこれどこの筋肉ってくらいムキムキだし、腰痛がひどい。

元々根性のない私だ。朝が来なければいい、朝が来たら、すぐ夜が来いと何度も思った。

オーナーの鰐渕さんは可愛い外見とは反対にかなり口が悪くて、「そんなヒョロヒョロした腕で生地こねるなバカ!」とか「段取りが悪いんだよ、阿呆!」とか「遅いわ、間抜け!」とか、バカ阿呆間抜けの三拍子をいつもくれた。

私だって頑張ってる、と何度歯を食いしばったか。
当たり前のように自分の仕事をこなす他のパティシエに自分の未熟さを見せつけられて心が折れそうになったことは何度もある。それでも辞めなかったのはただの意地だ。





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