君が、イチバン。

ケーキを口に運んで、舐めとる一条さんはやっぱり色気が半端ない。
「美味しいです」と微笑むから、体温が2、3度上昇した気がする。
やっぱり美形は環境破壊だと思うよ。


ーーーー

「お疲れ様、今日はもうこのまま上がっていいですよ。送ります」

結局、何枚撮影したのか。誰だか特定できない写真って本当なのか。まああれだけ化粧されたら特定出来ないかもしれないけど。
でも、楽しかったのは本当。


一条さんの車の助手席に座りながら、今日を思い出して、ふぅと感嘆に似た吐息が漏れる。
久しぶりのケーキ作りも嫌じゃなくて、完成したケーキに満足した。残さず美味しいと食べてくれたメンバーに感謝と嬉しさでいっぱいだった。

「生き生きしてましたね」

一条さんが優しく落とす声さえ、今は「はい!」と勢いよく返事をしてしまいそうだ。先生、あなたは先生です。
時々不意打ちで色気と毒を振りまきますが。

「それにしても、一条さん。場慣れし過ぎですよ?」

「うん?初めてじゃないですからね」

私の質問に語尾を曖昧に濁す一条さんはイタズラに笑う。それから、一呼吸置いて、

「若咲さんは、もうパティシエには戻らないのですか」

穏やかに私を眺めた。

「…ああ、仕事を辞めろと言っているんじゃありませんよ?ただ、純粋な疑問文です」

付け足してくれたけど、勿論一条さんがそんな意味で言ったんじゃないと分かってる。

「ほんとに…ここの人はみんな捨てようとしたものを簡単に渡してくるんですね」

恋する資格は四宮君が、お菓子作りへの感情は一条さんが。

「冴草さんが、Laiは学校みたいだって言ってました。私もそう思います。多分、無意識に、背中を押してくれる人ばかりです」

ゆかりさんの楽天的な性格も好きだ。冴草さんの妖しい魅力も、らっきょさんの破天荒な感じも、岡本さんも沖君も、みんな、良い人ばかりでまいる。

「良い職場ですね。だから、お客さんが絶えない」

私は笑って一条さんを見上げた。


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