君が、イチバン。

ーーーー

帰り際、奈津美さんが、そういえばと顔を上げる。

「この間の彼とは付き合っているの?」

「え?いや付き合ってないですよ!」

一条さんの事だろう。そういえばリップサービスしてくれたもんな。ああ、なんか恥ずかしい。

「そうなの?じゃあ瑛太さんとは今は?」

「瑛ち…瑛太さん?」

「付き合ってないの?」

奈津美さんのからかいも何も含まない純粋な疑問文に動揺する。なんで、

「なんとなく、わに君には憧れの強い視線だったけど、椎那ちゃん瑛太さんには気負ってなかったし、瑛太さんも椎那ちゃんは特別だったでしょ。仕事辞めてからもしかしたら一緒にいたのかなって」

奈津美さんの言葉にドキリとする。

「信じてもらえないかもしれないけど、職場で椎那ちゃん悪く言われてたでしょう、あれ私知らなかったの。私ひとりで突っ走ってたから影響はあっただろうから私のせいは間違いないだろうけど、スタッフの子が瑛太さんの事好きだったみたいで、だけど私達の変な関係も知ってやっかみもあったんじゃないかしら」

あの時は本当にごめんなさいと深く頭を下げる。だけど、

「瑛ちゃんは私以外にもあんな感じだったのに、」

「ほんとにそう思う?んー、私は周りが見えてなかったから分からないけど、わに君への気持ちには敏感だったの。その子もそうだったんじゃないかな」

それにね、と奈津美さんはふふと笑う。

「…あの日、椎那ちゃんが出て行ったすぐあと、瑛太さんが来たのね。それで、瑛太さんに椎那ちゃんの事悪く言ったらしいんだけど、その時の瑛太さん普段の感じが嘘みたいに怖かったらしいの。私は瑛太さんがわに君に『店、潰すよ?』っ言ってる所だけ見たんだけど、すごい冷笑だったのよ。あんな所初めて見たからすごく怖かった。私の事も害虫みたいな目で見てたな、あれでだいぶ目が覚めたわ」

奈津美さんが苦笑する。

「…今日もね、瑛太さんに太い釘刺されたの。自分の事しか考えてない馬鹿なあなたに出来るのは椎那ちゃんが過去を清算出来るきっかけを作る事だって」


そう言い切ってから可愛らしく首を傾げて私に笑った。




「それを愛と呼ばないの?」


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