君が、イチバン。

幕間





幕間




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椎那が去って行く背中を奈津美は見届けてから歩き出す。
横断歩道の信号が赤に変わって、奈津美はまた足を止めた。
会えて良かった、と思う。時間を置いた今、鰐渕との事は申し訳なかったと心から思う。けれど全てを話せなかった事が重く心にのしかかる。嫌いだった訳じゃない。むしろ女友達の少ない自分には唯一裏表なく接する事が出来る、なんとなく懐の広いようなそんな雰囲気を持った子だった。だからこそ違う出会いをしていたら良かったと思う。
彼女が幸せになれるようにと願えばまた瑛太から冷視線を送られるかもしれないが。

瑛太がJOUJOUに来たのは二ヶ月程前、丁度コンビニで椎那と再会して少ししてからだ。瑛太が来た瞬間店内の温度が下がった気がした。ーーー彼は怒っていたのだ。

「椎那と会うの?自分の懺悔をして君は満足だろうね。だけど彼女の気持ちはどうなるのかな。追う事も責める事もさせなかったくせに許しは請うの?わにちゃんは知ってるのかな、君の嘘を。椎那には本当の事をいうの?ああ、そんな顔しなくても言わないよ。そうまでして引き留めたのは感心するよ。だけど途中でリタイアするような嘘だったのなら許さない」

無意識に左手の指輪を握りしめる。あの時、ガタガタと震えが止まらなかった。鰐渕への嘘、それは椎那を追いかけようとする彼にーーーお腹に子供がいると言ったのだ。彼女には瑛太がいるから大丈夫だと。実際、鰐渕の代わりに椎那を追いかけた瑛太をみて鰐渕は耐えていた。それから子供は流れたと辻褄を合わせた自分は最低だ。
それでも、離しはしない。鰐渕を愛している。彼も今は自分だけを見てくれている。もしも、もしもこの先別れる事があっても墓まで持っていく覚悟だ。だが、椎那がまだ鰐渕を好きでいたら、もしかしたら話していたかもしれない。
けれど、そんな日はこないだろう。奈津美は重くのしかかる闇を見つめて彼のそばに居続けるのだ。

信号が青に変わって奈津美は何かを振り切るように歩き出した。




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