君が、イチバン。

その微笑に意味もなくどぎまぎしていると、一条さんが立ち上がって目線を合わす。


「…それで考えてくれましたか?」


なにを、なんて無粋な事がこの状況で言える筈もなく、逃げ場にもならない事を承知している。心の準備もできてないいきなりなタイミングでこれを持ってくる一条さんはやっぱりサディストだ。
一条さんの感情なんて読める訳ない。自分の感情すらわけがわからないのに。




「もしも一条さんが本気なら…」


本気なら、


「お付き合いすることは出来ません」



何も考えず飛び込んだら後悔するかもしれないし、しないかもしれない。だけどそんな曖昧な感情で振り回して良い人じゃない。
真っ直ぐに見つめる瞳に一条さんは少し意外そうに苦笑した。


「はっきり言われるとは思いませんでしたね」


眼鏡の奥の淡い瞳が私を映す。逃げ出したくなりそうな位、透明だ。なんだって皆、こんなに綺麗な人ばかりなのか。


一瞬視線が絡んだ後、一条さんは肩を上げて笑った。


「若咲さんは本当に面白いですね」


ええ⁈面白顔なんてしてないし!むしろ真剣だったんだけど。


「残念だけど、仕方ないですね。」


微笑したまま一条さんは私の頬に手をやる。
その仕草にいちいち緊張してしまうのは許して欲しい。


一条さんはそうする事が自然なように私の頬に口付ける。


それから耳元で、



「…結構本気だったんですけどね?」


呟く声に殺されそうだ。






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