君が、イチバン。
頬にキスが自然なわけあるかい。私は純粋なジャパニーズだ。
なに、あの悩殺されそうな声。一条マジックすぎるだろう。
よろよろしながら、事務所を出て、のんべぇ。に向かう。途中壁に頭をぶつけたのは一条さんのせいだと思う。
開店前の店内で、「うぉいっ!」と掛け声が聞こえたから、なんだなんだとその声のした厨房へ行けばらっきょさんが魚を捌いていた。
「あ、若ちゃんおはよう!」
らっきょさんは今日も元気がいい。目つきはどうみてもカタギじゃないけど、親しみやすい性格なのはもう知っている。
「いいとこに来たな、味見するかい?」
捌きたての魚の半身を持ち上げて二カッと笑うらっきょさん。
私も二カッと笑ってらっきょさんの横に立った。
「是非頂きます!けど良いんですか?」
「良いにきまってらぁ!自分が美味いと思うもんを客に出すのは当たり前だ」
なるほど。
「じゃあいただきますね」
まな板に置かれたままの切り身を、そのまま手で醤油を付けて口に運ぶ。
脂が乗っているけど、しつこくない。プリプリした歯ごたえ。
「美味しい!」
だろ?と満足そうに笑うらっきょさん。
「これは、天然ですか?」
「なんでそう思う?」
捌かれた魚はどうやらブリで、落とした尾がシュッと尖っている。養殖は他のブリとぶつかったりするから若干丸みを帯びているのだ。それに刺身にした時養殖は白っぽいけど、天然はピンクかがっている。脂もしつこくない。そんなような事を伝えたららっきょさんは手を叩いて感心してくれた。
「よく知ってたな、若ちゃん!」
実は瑛ちゃん知識だ。ブリ大根を作ってくれた時に「今は養殖技術も進んでるから天然に負けないよ」とコンコンと語っていた。