魔念村殺人事件
 店の中から、おじさんの奇妙な視線を感じつつ、陸と春樹は荷物を車に載せ、乗り込んだ。そして峠に入っていったのである。


「春樹、さっきのおじさんも、ケムンドウのこと知ってたな」


「そりゃ、魔念村から一番近い町だからね。知っていて当然さ」


 そう云って春樹は横目で陸を見た。

 峠はぐるぐると螺旋状になっており、道幅は狭く、昼間だというのに薄暗い。そして対向車は一台もすれ違うことはなかった。もちろん後続車もいない。この先は魔念村しかないのだから。森は鬱蒼とし、窓を少し開けると、虫の声や何かの動物の鳴き声が聴こえた。

 車は、やがて峠を三つ越え、平坦な道に出た。すると、木で出来た看板に、『魔念村へようこそ』と書いてあったのである。老朽化したせいなのだろう、文字は消えかかっており、陸は何となくそれが不気味に思えた。

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