魔念村殺人事件
 一人一人の顔を見渡して訊いたが、誰も答えなかった。

 誰も心当たりがないというのだろうか。いや、鈴音だけが明らかに狼狽しているように見えるが、気のせいだろうか。昨日、美紀の失踪時の話しで真優が何かを云いかけた。その時に、鈴音は真優を睨み、黙らせたのは確かだ。美紀の失踪と何か関係があるのだろうか。警察はすぐに来れないだろうから、鈴音が一人の時を見計らって呼び出し、話しを訊く必要がある。そして鈴音が犯人だという可能性も、ないわけではないのだから。

 しかし鈴音だけを呼び出すのも、他の者達が変に思うだろうか――。

 考えあぐねた末、陸は結論を出した。


「警察を呼んで到着するまでの間、ここにいる皆さん一人一人に話しを伺いたいのですが、順番に車に来て貰えますか?」


 すると春樹が引きつった顔で携帯をポケットから取り出し、ディスプレイを陸に見せた。


「陸、この村は圏外なんだ。だから俺達はこの村にいる時に携帯なんて持ってなかった。それに小雨ならいいけれど、この大雨だ。ケムンドウの怒りに触れるというよりも、大雨の中、峠道を運転するのは危険なんだよ」


「じゃ、雨が止むまで俺達はこの村から出れないというのか?」

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