10年後の君へ
第一章 『ポスト』
木々が新緑に染まる頃。

蝉の声がますます夏の暑さを後押しする。

流れる汗を拭いながらも僕は壊れたクーラーを直す。

仕事を始めてからもう10年ほどか。

電気科卒業からずっと電気屋で働いてきた。

クーラーを直すくらいおてのものだ。

「どう、直りそう」

後ろから声をかけてきたのは連れ添って3年になる妻。

お腹は少し大きくなっている。

もう2ヶ月もすればお医者さんに言われた出産予定日だ。

「うん、やっぱフィルターに埃がついてただけやわ」

僕はクーラーのスイッチを入れる。

涼やかな風がふきでて気持ちいい。

「そっか、お疲れ様。今、お茶入れるね」

妻はゆっくりと立ち上がると台所に向かう。

当たり前の幸せ。

これがいつまでも続けばいい。

ふぅ、と一息つくと妻の入れてくれたお茶を飲む。

うん、うまい。
< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop