口紅
5才
今日のお母さんはいつもと違う気がする。


いいにおいがする。
それにちょっときれいな気がする。


服だっていつものエプロンじゃないし、
靴だって転びそうなかかとの高いピカピカのくつだし。


おかしいな、前にお母さんはあんなくつを履いた、若い女の人をみたとき、

「やあね。最近の若いひとって、あんなに高いくつをはくのね。ミカは、あんなくつはいちゃダメよ。」って、

わたしに言ったのに。

でもすっごく楽しそう。
あんなお母さん、初めて見た。





それから、お母さんは口紅を塗った。
わたしは思わず言った。

「ねえ、わたしにも塗って!」

お母さんは、わざとらしく腕を組んで、考えるふりをした。

「うーん。ミカにはまだはやいかな。おっきくなったら、塗ってあげます。だから、にんじんも、ちゃんと食べようね。」

「えー!!」

不満そうなわたしの頭に手をのせて、お母さんは、いたずらっぽく微笑んだ。

その仕草に、ミカはどきっとした。
< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop