口紅
12才
今日は中学校の入学式。

私はばっちりセーラー服を着て、二つぐくりをして、いつでも出発できる。

でも、お母さんの準備が整っていない。

冗談じゃない、お母さんのせいで、入学式当日から遅刻なんて。

そうおもってはいるけど、お母さんも急いでいる様子なのでなにも言わない。

お母さんもだんだんイライラしてきたのか、あぁ、もう!とか、ああーごめんね、
とかいいながら、あっちへこっちへいったり来たりを繰り返している。

「何、探してるの?」と聞くと、

「口紅よ。」と、お母さんは答えた。


私はつい、かっとなって、

「どうでもいいじゃない、そんなの!」
と、

叩きつけるように言い放った。

くちごたえの少ない私がそんな態度をとるなんて、お母さんは思ってなかったようで、
一瞬目をまるくさせて、悲しそうに、

「そう、そうよね。ごめんなさいね。」
といって、気まずいまま私達は、家を出た。


口紅を塗っていないお母さんは、急に老けて、疲れて見えた。

私は式の最中も、お母さんの事を考えていた。
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop