口紅
23才
「結婚、します。」

言い切った私を、ぽかんとした顔で
見つめる彼とお母さん。

「誰と?」

「あんたと。」

マヌケな質問をした彼の腕を取って言うと、お母さんは目を丸くした。

「ミカ…めんどくさがっちゃダメよ。」

「いっいや、まとめたワケじゃなくて。」

私は姿勢を正し、いいよね、とお母さんに
聞いた。

お母さんは、ほほえんで、頷いてくれた。

彼も、逆プロポーズに戸惑ってたけど、
ミカらしいな、と、先越されたな、とぶつぶついいながらも、嬉しそうにしていた。






「ミカ、綺麗よ。」

ウェディングドレス姿の私は、自分じゃない、と思うくらい、綺麗…なのかな。

オトコっぽい私だけど、ドレスを着ると、
なんだかしおらしく、上品な気持ちになる。

逆プロポーズから1ヶ月。
いよいよ結婚式が始まろうとしている。
お母さんとお父さんの結婚式を挙げた教会で。

もういないお父さん。お母さんは、
懐かしそうに教会を見渡していた。

「最後の仕上げ。」

そういってお母さんが取り出したのは、
あの口紅だった。

「ねえ、どうして口紅、減らないの?」
ずっとわからなかった質問をしてみた。

「おまじないがかけてあるの。」

「もう、ふざけたりして。」

そういって顔を見合わせて笑った。

ひと塗り、ふた塗り。

重ねるたび、お母さんの心と恋の歴史が、
私に重なっていく気がした。

小さい頃、約束した。大きくなったら、
口紅を塗ってくれるって。

覚えてくれてたのかな。

私、本当に大きくなった。

お母さんが小さくみえるほど。

でも何年たってもお母さんはお母さん。
必ず私の先を歩く女性なんだ。

私は、喉の奥、胸から込み上げてくるもの
が、どういう意味なのか、わからなかった
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