Love Step

過去の恋人

女優の浅川 美咲(あさかわ みさき)は雪哉の店に入ると真っ直ぐ受付に近づいてきた。


「いらっしゃいませ 浅川様」


入って数ヶ月しかならない受付の梨香(りか)は女優 浅川 美咲を目の当たりにしてドキドキしながら頭を下げた。


「こんにちは 時間は合っているわよね?」


「はい」


にっこりと笑いながら言う美咲に梨香はバッグを受け取ろうと手を差し出した。


美咲は映画やドラマで活躍中の女優だ。


年は28歳で雪哉と同じ。


切れ長の目がきつい印象を与えるが、その容姿を活かし出来る女の役が多い。


「どうぞ こちらへ」


美咲の白いサマージャケットとバッグを預かると雪哉専用の個室へ案内した。




ドアがノックされた時、雪哉はアシスタントに指示を出している所だった。


「じゃあ、頼むよ」


「はい 用意してきます」


仕事を頼まれたアシスタントは美咲と入れ替わりに出て行った。


「雪哉」


雪哉に近づき首に腕を伸ばす。


伸ばした腕を首に絡ませ雪哉の唇にキスをする。


「美咲……」


雪哉は無表情のまま美咲の腕を外す。


「雪哉?」


物足りなげな視線を向ける。


「半年前に別れただろう?」


「いいじゃない お互い束縛しないで楽しみましょう?」


雪哉を手放すんじゃなかった。


嘘がつけない性格だから好きな男が出来たと半年前に告げたのだ。


雪哉を嫌いになったわけではない。


自分の言いなりになるIT企業の社長にふらっとしてしまったのだ。


2ヶ月もするとつまらない彼には飽きてしまった。


やはり雪哉以上の男はいない。


「ね?雪哉」


定評のある切れ長の目でうっとりと雪哉を見上げる。


「好きな人がいるんだ だからそんな考えは持たないでくれ」


雪哉は美咲から離れるとイスに座るように手で示した。


美咲は納得行かない顔をしていたが肩をすくめてイスに座った。



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