Love Step
黙って帰ることが出来ずに仕方なく化粧室へ向かう。


鏡を覗き込むと鼻が少し赤くなっていた。


鼻血が出るかと思った。


鏡の中の自分を見て首をかしげる。


どうしてわたしを放っておいてくれないんだろう……。


強引な峻に戸惑いを感じる。


とにかくあの人を気にしない事にしよう。


杏梨は鏡に向かって大きく頷くと化粧室を出た。



「遅かったな?」


化粧室を出ると廊下の壁に背を預けて立っている峻がいた。


似合いすぎる佇まいに杏梨は呆気に取られる。


そしてこちらに歩いてくる姿に我に返る。


「関係ないでしょっ!」


杏梨は峻を睨みつけツンとそっぽを向く。


「そんなにとげとげしくなるなよ」


「だって、峻くんが変なこと言うからだよ」


「告ったのが変なことかよ……」


ぼそっと呟き、ため息を吐く。


しかし、ため息も出るが杏梨に「峻くん」と呼ばれてうれしい。


「……じゃあ、俺を良く知る努力をしてくれるか?」


「えっ?」


「いいだろ?なっ、OK~ 決まりっ」


嫌だと返事も言えないまま勝手に決めてしまった。


「もうっ!しらないよぉ」


杏梨の目の前に手が差し出された。


「はい」


「はい?」


峻の顔と差し出された手を交互に見比べてしまう。


「携帯貸して?」


「携帯?どうするの?」


「アドレスとケーバン、交換するに決まっているだろう?俺を知ってもらうにはたくさん会わないとな?」


2人の横を店の従業員が怪訝そうに通っていく。


ナンパされているみたいで嫌だな……。


さっさと戻りたくて杏梨はバッグから携帯電話を出して峻の胸に押し付けた。


「サンキュ」


峻は素早く2人のアドレスと携帯番号を交換した。


「出来た!」


「は、早い……」


手の動きの早さに呆然としているうちに終わってしまっている。


返される自分の携帯電話を受け取りながら口をあんぐりと開けた杏梨だった。




< 141 / 613 >

この作品をシェア

pagetop