Love Step
携帯電話を返された杏梨は我に返った。


手馴れているのはきっと女の子たちとアドレス交換をしているせいだね。


一人勝手に納得して杏梨はバッグの中に携帯電話をしまい部屋に向かった。


「おい、そっちじゃない こっち」


先を歩く杏梨の腕を掴んだ。


「え?」


「方向音痴だな」


「く、暗いからだよっ」


腕をつかまれたまま歩き始める峻。


やっぱり峻くんに触られても大丈夫だ……。


不意打ちで掴まれても発作が起きなかった事がうれしい。




* * * * * *



「遅かったな?迷子になったかと思ったよ」


雪哉が杏梨の姿を見るなり言った。


なかなか戻ってこない杏梨を心配していた。


「う、うん 峻くんとばったり会ったから良かったよ」


峻と一緒にいた事が後ろめたくてばったりを強調して言う。


峻くんだって?


杏梨の口から親しげに峻の名前が出て雪哉は内心苛立った。


「峻と仲良くなったのね?うれしいわ♪」


彩は愛する雪哉から杏梨が離れてくれれば、弟と付き合おうとかまわないと思っていた。


「え?仲良くなんか――」


「そっ!俺たち意気投合~ってね」


杏梨の言葉をさえぎって峻がうれしそうに言った。


もうっ!ゆきちゃん 誤解しちゃうよ。


勇気を出して雪哉の顔を見るとあまり見た事がない不機嫌そうな顔をしていた。


ううっ……怒っている……怒っているよね……?



杏梨は視線をそらして食べ物を口に運び、食事に集中している振りをした。


その後、杏梨を除く3人は話に盛り上がっていた。


仕事の話になると杏梨にはちんぷんかんぷんだ。


杏梨はオレンジジュースを飲みながら黙って聞いていた。


まだ帰らないのかな……。


ちらっと腕時計を見ると10時を回っていた。


あふっ……。


杏梨はあくびを噛み殺した。


「お子様は寝る時間だな お開きにしようか」


雪哉は杏梨を見ながら言った。


わたしのこと……お子様って言った……。


杏梨は驚いて呆然と雪哉を見た。





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