Love Step

嫉妬

マンションへは10分ほどで着いた。


なんだぁ 意外と近かったんだ~ 歩いて帰って来れば良かった。

歩いて帰ってくればゆきちゃんと手をつないでいろいろ話せたのに。


杏梨の雪哉に対する不機嫌は10分が限界だった。


あまりの近さに雪哉に怒っていた杏梨はすっかり忘れた。


「ゆきちゃん、近かったんだね?」


お金を払い終えた雪哉に言う。


「ん?あぁ」


やっぱり言葉少なげな雪哉だ。


「なんで怒ってるの?」


先にマンションのエントランスのガラス扉へ歩いて行く雪哉の腕をグイッと引っ張った。


「杏梨、部屋に行ってからにしよう」


雪哉は杏梨の手を握るとエレベーターに向かった。




玄関に入ると押し込められるようにして中へ入れられた。


「ゆきちゃん?」


雪哉がなぜ不機嫌なのか分からない杏梨は不安になった。


後についてリビングへ入る。


雪哉は腕時計を外してテーブルに置いていた。


それからポケットから財布を出して無造作に時計の上に放り投げた。


細身のネクタイも指を結び目に入れてあっという間に外していく。


「ゆきちゃん、何で怒っているの?」


まだネクタイが首にかかったままの状態の雪哉の目の前に立った。


杏梨に両腕を掴まれて雪哉の動きが止まった。


雪哉を見つめる瞳が大きく揺れている。


その揺れる瞳を見た瞬間、雪哉は苛立ちを杏梨に向けてしまった事を後悔した。


片手を額に置き深いため息を吐く。



ゆきちゃん……。


「あ、あの……」


いつもの杏梨らしからぬ言い方に雪哉は胸がつまった。



どれだけお前を不安にさせていたのだろう……。

杏梨は彼と話をしていただけだ。

キスをしていたわけではないのに、何を嫉妬していたんだ。


「杏梨、何も怒っていないよ」


笑顔を向けたが杏梨の顔は晴れない。


「うそつかないでよ……」


「杏梨?」


杏梨の顔が歪んだ。


「ゆきちゃん、嘘つかないでよっ!」



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