Love Step
雪哉は警戒心を解いた杏梨を見て安堵した。


男性恐怖症の杏梨、自分と2人っきりになって怖がらないだろうかと心配だったのだ。


いつもどおりに戻った杏梨の後姿に雪哉は微笑んだ。



杏梨は可愛い。


髪をあんなに短くしているが顔立ちの可愛らしさは消せるわけがない。


いつか自分の手で髪をセットしてあげたいと思う。



「杏梨、テレビでも音楽でも好きな事をしていいんだよ?」


リビングとキッチンの間でペットボトルからそのまま飲んでいる杏梨に言う。


「ありがとう でも眠いからもう寝るね?」


「おやすみ 杏梨」


「おやすみなさい……ゆきちゃん」


杏梨は恥ずかしそうに言うと自分の部屋に行った。






一緒に住んでみると2人の生活はすれ違いばかりだった。


学校から少し遠くなってしまった杏梨は毎朝早くに原付バイクに乗って登校する。


混雑した電車には乗れないからだ。


あの事件後に免許を取り、杏梨は原付バイク通学になった。


原付バイクも不便なこともある。


雨の時だ。


雨の時は母が車で送り迎えしてくれていた。


どうしても母親の都合がつかない日は休んだりしていた。



「ただいま」


玄関が開いて疲れたようなゆきちゃんの声がした。


ただいまって……今は朝なのに……?


杏梨はダイニングでトーストを食べていると雪哉が入って来た。


「お帰りなさい ゆきちゃん 部屋にいるのかと思ってた……」


「徹夜の仕事だったんだ」


濃紺のジャケットを無造作にソファーの上に投げる。



「お疲れ様です」


でもね 心の中で連絡してくれればいいのにと思う。


ゆきちゃんが徹夜しているなんて知らなかった。


疲れているみたい……徹夜じゃしょうがないか……。


雪哉は洗面所へ消え、少しすると戻ってきた。



「杏梨、雨が降っているから送るよ」


夜中から降り続いている雨。


今日は休んでしまおうかと思っていた。



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