Love Step
「あんな事件があったから……触れる事が出来るのはゆきちゃんだけで……だから、わたしそれを恋と勘違いしていたのかもしれない」



「何を言っているんだ!?」



杏梨の言葉を理解するには少しの時間を要した。



「わたし……わたしはきっと……あの嫌な過去を忘れさせてくれる人ならば誰でも良かったのかもしれない……」



「バカな事を言うな!俺以外に誰がお前に触れられると言うんだ?」



「……峻くん ……峻くんならわたしの過去を忘れさせてくれる もう……ゆきちゃんじゃだめなの……」



「杏梨、落ち着いて聞いてくれないか?座ろう」


杏梨の肩にもう一度手を置き、ソファーに座らせようと試みるが、杏梨は立ったまま動こうとしない。



「何も考えたくない……ワシントンへは1人で行くから ゆきちゃんは彩さんの側にいてあげて」



「ふざけるな!」



杏梨のばかげた言葉に、珍しく雪哉は声を荒げた。



「ふざけてなんかいないよ もううんざりなの」



心にもない事がすらすらと出てくる。



これ以上、ゆきちゃんの顔が見れない。



目が痛くなって、口を開けば涙も一緒に出てしまうに違いない。



「ゆきちゃん……嫌い」


泣かないように杏梨はボソッと呟くとリビングを出た。



「杏梨っ!」



部屋に行ってしまった杏梨を追いかけようとしたが、思いとどまった。



今は何を言っても無駄だろう……。


少し落ち着いてからの方がいい。


一度言い出したら耳を貸さない頑固な面もある。


雪哉は大きくため息を吐くと、ソファーの背にぐったりと身体を預けた。



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