Love Step

変身

「さあ、降りて」


店の駐車場に到着しても杏梨は車の中でぐずぐずしていた。



「杏梨?」



「う、うん……」



ゆきちゃんならばこの髪を直してくれる事は間違いないけれど、この髪をもう一度見るのが嫌だ。


あの変な髪型の自分と対面する勇気がない。



「どうした?」


助手席に回った雪哉はドアを開けて杏梨の顔を覗き込んだ。


トクン……。


見つめられて杏梨の心臓が軽く跳ねた。


「直すんだろう?」


優しく微笑まれて杏梨はコクッと頷いた。



* * * * * *



雪哉専用の個室に入るとすぐに鏡の前に座らされる。


まだ杏梨は帽子をかぶったままだ。


「杏梨、どんな髪型にしたいの?」


目の前に髪型のカタログの雑誌が差し出される。



どんな髪型にしたいのって言われても……杏梨は困った。


とにかくゆきちゃんの好きな髪型にしたい。


手渡された雑誌をパラパラめくっていく。


ショートヘアーからロングヘアーまでバリエーションに富んだ髪型が目に入る。


こんな短い髪なんだからロングヘアーになれる訳がない。


前の方のページに戻ってショートヘアーの髪形を見る。


雑誌を見ている杏梨をその場に残し、雪哉は必要なものを取りに席を外した。


杏梨はカタログを前にして悩んでいた。


しばらくじっくり見ても気に入った髪型は見つからないのだ。



「髪が長かったらふんわりヘアーになれるのに……」


ボソッと呟いた。


「短い髪が嫌なんだね?」


雪哉の声にびっくりしてカタログから顔を上げた。


部屋にいないものと思っていたから。


「え……っと……」


「今、髪が長かったらと言っただろう?」


鏡の中のゆきちゃんが微笑んでいる。


「あっ……」


心の中で言ったつもりが口に出していたらしい。






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