Love Step
ゆきちゃんに見てもらいたいために可愛くなりたいと思ったけど、久しぶりに自分が変わって違和感がある。


「すぐに慣れるさ」


そう言うとサイドブレーキを解除し、アクセルを踏んだ。


助手席に座った杏梨をちらっと横目で見る。



緊張した表情で前を見据えた感じだ。


「杏梨、もっと気を楽にして」


「ん……」


「ただ服を買いに行くだけ あ、先に食事にする?」


すっかり食事の事を忘れていた。


杏梨は大きくかぶりを振る。


「先に買いに行きたい」


そこで着替えればゆきちゃんに恥ずかしい思いをさせなくて済む。


「OK」


雪哉は知り合いのブティックに車を走らせた。




ゆきちゃんの車はわたしに似つかわしくない高級なブティックの前に停まった。


「さあ、降りて」


「ゆきちゃん、待ってよっ!このお店に入るの?」


こじんまりとした店構えなのだが、ディスプレイされたマネキンはふんわりとした印象の可愛らしい服を着ている。


「そうだよ つべこべ言わずに早く車から降りて」


一度、車を降りかけた雪哉は再び地面に足をつけた。


そしてまだ降りようとしない杏梨を窓越しに見ながら車の前に回って杏梨の横に立った。



「杏梨、どうしたんだ?」


杏梨がブンブンと大きくかぶりを振る。


「ゆきちゃん、こんなお店じゃなくて良いのっ だから、早く違う所へ行こう!」


店の前の駐車場だからいつお店の人が出てこないか心配なのだ。



「ゆきちゃん、早くぅ!こんな可愛い服、わたしには絶対に似合わないんだってば!」



シートベルトをまだつけて出ようとしない杏梨を見て雪哉はため息を吐く。



このお姫様はどんなに自分が可愛いか分かっていない。


「いいから、ここでは数着だけにするから」


「数着って……」


雪哉があまりにも簡単に言うから杏梨は呆気に取られた。



その隙に雪哉は腰をかがめてシートベルトを外した。


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