空白の玉座
近づくにつれはっきりと見える目の前の光景に、ルシアは言葉を失った。
燃える家。
走り回る騎馬隊から逃げ惑う村人。
そして、風に靡く
―――ベルトワール帝国の軍旗
ルシアは逃げる人々の流れに逆らうように自宅へ走った。
扉を開けるとそこはもう見慣れた我が家ではなかった。
家具は倒れ食器が散乱し、血だらけの父と母が倒れていた。
「!?!…お父さん、…お母さん!」
必死に揺すっても彼らから反応はない。
「……ルシ…ア」
後ろから聞こえた声にルシアは息を呑んだ。
「…お兄ちゃん?!」
扉の脇に兄が壁に凭れかかるようにして倒れている。
兄の体もまた血だらけだった。
「逃げろ…」