To Heart
「いつもの店」とは佐久間の職場の近くにある、佐久間お気に入りの創作イタリアンが食べられるダイニングバーだ。

もちろん、2人の時はそんな洒落たところには行かないが、いわばそこは、佐久間お得意の合コン会場なのだ。

沙也加と別れて以来、僕はますます恋愛に臆病になり、今は彼女も好きな人もいない。だからといって淋しいわけでもなく、時間があるときは友達と会ったり、仕事に関する勉強をしたりして、それなりに楽しく過ごしている。

佐久間は「素敵な彼女を作る」と言って、よく合コンに参加しているようだが、合コンで運命の出会いがあることなど、まさに「盲亀の浮木(もうきのふぼく)※」だと僕は思う。

合コンに来る女の子たちの多くは、僕たちを品定めするような目で見る。

大抵聞かれるのは「車の有無」や「実家の場所」「男兄弟の有無」などなど……

まぁ、男側の多くもそんな感じだけれど。

その場では盛り上がっても、そこから発展していくことは稀(まれ)だ。

そう思いながらも、こうやって切羽詰まった感じの連絡を受けると、どうも断れない。

仕方なく僕は、待ち合わせ場所へと向かった。


(※)盲亀の浮木
目の見えない亀が、百年に一度海面に浮かび、たまたまそこに漂う流木の穴に入ろうとするという話から、仏の教えで、出会うことが困難であることのたとえ。また、滅多にないことのたとえ。



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