サクラ

 私の右手は、あの時と同じ動きをする。

 脳が、その時の記憶だけを開いていた。

 やめるんだ!

 止まらない。粘土に竹べらを刺したような感触だけが、私の全身を支配していた。

 ゴロン……

 足元に何かが転がって来た。

 見るな、頼む、見ないでくれ!

 判ってる……

 足に当たった小さな塊を蹴る。

 不規則に転がり、止まった。

 お、おじ、さ、ん……

 凍り付いたままの私。

 走り出そうとしたが、身体が意思通りに動いてくれない。

 うずくまる私。

 視覚の中に、両手が映る。

 どす黒い血。

 身体中が血で濡れていた。

 生暖かった血が、少しずつ冷たくなり、私の身体から熱を奪って行く……。




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