来栖恭太郎は満月に嗤う
グラスを置き、俺はクレオの顔を見る。

「どんなに上質なものでも、旬を逃がせば味は悪くなる一方だ。上物を苦労して手に入れても、味の分からぬ者が管理したのでは台無しだ…なぁ?クレオよ」

遠回しに、クレオの不手際を責める。

「申し訳ありません、来栖様」

それでも口答え一つせず、クレオは深々と頭を下げた。

「やはり鮮度を求めるならば、俺が自ら出向いて上物を探すしかないか」

そんな事を言いつつも、別段これ以上クレオを咎める気はない。

グラスを置き、手で追い払うような仕草を見せると、クレオは手早くワイングラスとボトルを下げた。

引き続き、俺は食事を愉しむ。

二口、三口と料理を口に運び、再びフォークとナイフを置いて口を拭いながら。

「クレオ」

俺は急に思い立って、包帯姿の執事の名を呼んだ。

「夕食が終わったら俺の馬を用意しておけ。月夜の散歩としゃれ込む」


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