名残の雪
「えー?久保は雅美が好きなんだと思ってたけどな、アタシはー」
ポーチからジャラジャラとメイク道具をひっくり返し、ビューラーでまつげを丁寧にカールさせる知恵は、鏡越しにわたしを見る。
「変なこと言わないでよ」
ちらっと知恵を見て、すぐに視線を机の上のルーズリーフへと戻す。
「そうかなあ~、よく見てるよ雅美のこと」
そう言いながらマスカラの容器をカラカラ振って、ブラシを出しまつげに綺麗に乗せていく。
「それは…っ。…なんでもない」
わたしがお兄さんの彼女だったから、アイツにしてみればただの興味でしかない。
とは、言えなかった。
不思議そうにこちらを見る知恵の瞳は、さっきよりも一回り大きく変身していた。
「わたしもメイクしてみようかな…」
ぽつんと呟いたわたしに。
瞬きすら許されない状況の知恵は少し表情を歪ませる。