そして俺らは走り出す
十人並みの彼女
「へいっパス!」

俺は味方からボールを受け取ると、すぐさまドリブルをし
敵の間を潜り抜けゴールにシュートを打つ。

ガコンッと音を立て、ボールは綺麗にリングに吸い込まれていく。





「きゃー!! 田中くーん!!」


田中 紘嵩(タナカ ヒロタカ)。
それが俺の名前。

高2でバスケ部のキャプテンと学級代表をしている。


身長は156cmで低めだけど、どちらかと言えばイケてる方だと思うし
女子の先輩方や後輩達にも人気がある。


今だって練習の邪魔にならないギリギリの所まで、ぎゅうぎゅう詰めになって応援をしてくる。


まぁ、別に悪い気はしないわけで。



でも、俺には気になってる奴がいる。

――いや、もうこの時には好きになってたのかもしれないが。



ダムダム

キュッキュッ


女子のほうは、まだ練習が続いてるようで
ボールと靴の音が体育館に響く。



「桜音(オト)!」


その名前が呼ばれると同時に、俺の心臓が飛び跳ねる。


さらさらの長い髪をひとくくりにした女子生徒にボールが渡ると、その女子生徒はドリブルを始める。


ダムダム



まただ……。

俺がいつも思うのはそう、音。



アイツがドリブルをしてるとき、何故か靴の音が響かない。

と言うより、音がしていないんだと思う。


他の奴の音しか、響かない。



初めてこの事に気付いたときには、本当にびっくりした。


俺以外は気付いてないと思う。



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