そして俺らは走り出す

「あ、そうそう。

次の試合すぐだから、さっさと戻ってこいよー」

後ろから聞こえた声に片手をあげて答えると、一直線に医務室に向かった。




「んー、人混みによったのかな。

どっちにしろ、異常はないみたいだし、すぐに目を覚ますと思うわ」

「そうですか、ありがとうございます」


俺はベッドに寝かせたアイツにそっと制服を被せた。

俺が今まで着ていた、佐藤という名札が付けられたものを。


「それじゃ、また来るんで。

起きてもそのまま待つように言っといてください」

「分かったわ。

──決勝戦、頑張って」



そんな激励の言葉に一言お礼を言って、俺は医務室を後にした。



この時の俺の名字は佐藤。
──そして今の名字は、田中だ。


俺の両親は一度、俺が中学を卒業したときに離婚している。
父さんの友達が借金をしたまま蒸発したそうだ。

借金の保証人になってた父さんは、こんな借金のある身で家族とは一緒にいられない
辛い目に合わせたくないから、今だけ離婚してくれ──と、俺と母さんに土下座をしてまでお願いしてきた。

俺の母さんは承諾しないわけにはいかなかった。

だが、気持ちはずっと変わらないようで。

【──分かりました。

但し条件があります。






ちゃんと借金を返し終わったときは、また、わたしの所へ戻ってきてください──】

とまぁ、そんなお涙頂戴もののやり取りがあり。


今の俺は母さんの姓を名乗っているのだ。



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