ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

神父の問いかけに答えることなく
俺を凝視した表情は
真剣そのもの


美羅の唇が、微かに動いた。
でも、それは声になってない。


美羅が誓いの言葉を言わず
黙り込んでいるせいで
チャペル内が、少しザワつき始めた。


美羅の耳に
その雑音は、まったく届いてねぇみたいだ。


そして
俺と目を合わせたまま
お前は言ったんだ…


ハッキリと、清々しい声で…


「誓います」と…


その言葉を聞いた俺は
不思議な感覚だった。
今まで嫉妬と怒りに満ちていた心が
なぜか徐々に静まっていく


美羅…
まさか、今のは…


その後のことは
よく覚えてない。


まぁ、俺にとっては好都合だったかもしれねぇ
美羅と兄貴の誓いのキスを知らずに済んだ。



そして、披露宴
家族や友人に祝福され
美羅は嬉しそうに笑ってた。


俺は少し離れた席で
そんな美羅を、時折見つめては
酒をたらふく飲み
あの誓いの言葉の意味を考えていた。


あの時、確かに美羅は俺に何かを誓ったんだ…


それが、なんだったのか
それとも
俺の思い過ごしなのか?


結局、答えなど出なかった。


どちらにしても
俺たちは、それぞれ違う相手と夫婦になり
離れてしまった。


それに、あんなに嬉しそうにしてる美羅
結婚を後悔してる様には見えない。


兄貴に微笑みかけ
甘える仕草さえ見せている。


あれは、俺の願望が生み出した夢幻だったんだろうか…


酔いがまわった頭では
これ以上考えることは出来なくて
美羅に何もいってやることなく
披露宴は終わった。


あの時
お前を奪って逃げていたら
美羅は今みたいに
笑ってくれてただろうか…








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