ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

最上階まで来た所で
上杉君は、やっと腕を離してくれた。


「急にどうしたの?」


私の質問に答えることなく
彼は重そうに、鉄の扉を開け
屋上に私を連れ出した。


初夏の眩しい日の光が
ジリジリと照りつける中
小さな日陰を見つけ
そこに腰を下ろす。


「授業、始まっちゃうよ…」

「いいんだ…
それより、ちゃんと説明しろよ」

「…うん」


まだ少し痛みと熱を持った頬を
押えながら
私は上杉君に
自分の生い立ち
優斗、聖斗のことを
全て話した…


彼は常に私の目を見て
決して、そらすことはなかった。


「…その、聖斗ってヤツのこと
まだ好きなのか?」

「多分、もう私たちの関係は
元には戻らないと思うけど…好き…」

「そんな酷いこと言われてもか?」


私は、真っ青な空に湧き出た入道雲を見上げながら
迷うことなく言う。


「うん。好き…」


そよぐ風が乱した髪をかき上げ
ため息をついた時だった…


「忘れちまえよ…」

「えっ…?」

「そんなヤツのことなんて
忘れちまえって言ったんだよ!
そんなに寂しいなら…

俺が、側に居てやる。
聖斗ってヤツの変わりに
俺が江川を守ってやるから…」


上杉君の顔は真剣そのもの
冗談だろうなんて、笑いとばすことなどできなかった。


「でも、私は…」

「すぐに忘れられなくてもいい…
ゆっくりでいい…
俺は、待ってる」


返事は出来なかった。
でも、上杉君の気持ちは嬉しかった。


「初めて…なんだよ…
自分のことより
誰かのことを優先したいと思ったのは…」


上杉君…






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