†Bloody Cross†
「はぁッ、はぁッ……ぅ」
牙跡を消し終わる頃には、少女は頬を染め息があがっていた。
微かに身体も熱い気がするのは、気のせいじゃなくて人間に対する媚薬の効力が出ているせいだ。
「ん……ふぁ」
「わりぃな。今、怪しまれるわけにはいかねぇんだ」
近くの木に背を預けるようにして少女を座らせてやれば、まだ甘い声を零す。
他の奴らはともかく、蒼は俺が少しでも怪しい行動をとれば何かしらに感付くはず。
今はまだ目的を悟られるわけには……ッ?!!
――――キィン
少女に背を向け森を出ようと歩きだした瞬間に、背後に突然感じた凄まじい殺意。
さっきまでは誰の気配も無かったはずの、突然殺意が現れた場所に反射的に腰に差してあった短刀を投げる。
大体の想像はしていたが、それは簡単に弾かれ地に突き刺さった。
「……誰だ??隠れてないで、姿を見せろよ」
凄まじい殺気を放ちながらも中々姿を現さないソイツが居る場所に、笑みを浮かべて挑発する。
「ほぅ……俺に気付いたか。だが、やはり鈍いな」
低いゆったりと紡がれる声と共に、木々の間から現れたその姿に俺は驚いた。
陽の光を受け金にも銀にも見える獣の耳に、白地に金模様の着物の裾から覗く同色の幾本もの尻尾……
そのさまはまるで狐のようで――――……